2021-03-20 09:09:00
告知された日の振り返り
日記
告知をされた日の出来事、自身の心境について、日記に残させてください。
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1. 初めて受けた人間ドックの結果は「要精密検査」
以前から、節目だから「40歳になったら人間ドックに行こう」と決めていたので、2021年1月27日に日帰り(半日)で受けてきた。会社の健康診断も年に2回あるが、胃カメラもやったことないので受けたかったし、不摂生な生活をしていたのもあって、動脈硬化も気になっていたので、頸動脈エコーなどのオプションもつけてみた。人間ドックと言っても会社の検診の延長線上で、単に検査項目が増えただけでササッと終了。
約2週間後、健診を受けた医療機関から電話がかかってきた。
「一部、精密検査が必要な項目がありますので、一度泌尿器科を受診した方がいいかと思いまして…」
冗談きついなぁと思いながらも「えっ、結構深刻なやつですか?」
「いや、電話ではお伝えできないので、まぁ大したことないので気にする必要はないのですが、健診結果は郵送しているので確認してくださいね〜」
「大したことないけど」って言葉にかなりホッとする。ただ、届いた結果をみると「要精密検査」になって気になるので、土曜日に泌尿器科を受診することにした。
2. 近所のクリニックで言われた「がんの可能性が8割ほど」
近所のクリニックにオープン前に着いたが、すでに2人並んでいた。私が3人目として後ろに立って並んでいたら、お婆ちゃんが私と2人目あたりに近寄ってきて、列に並ぶことなくカバンをゴソゴソと調べはじめた。クリニックのオープンしたと同時に、急にヨボヨボのお婆ちゃんが機敏な動きで完全に私をスクリーンアウトし、2人目も追い抜かす勢いで診察券を出そうとしている。タッチの差で2人目が診察券を先に出せたようだが、完全に私は4人目になっている。おそるべし…、お婆ちゃん(笑)。別に急ぐ用件もないので、気にせず待合室でスマホをイジって、ぼーっとしていた。普通の日常そのものという感じ。
診察室に呼ばれ、簡単な問診をされた後、腹部エコーをした。上の服をまくし上げ、診察室のベッドに横になり、超音波装置の端末にゼリーをべちゃっと塗り、私の腹部や横腹、背中にグリグリと押し当てる。
「あぁ…」と言ったか記憶が曖昧だが、医師の口から何かがこぼれた。モニターを私の方に向けてくれたが、黒と白だらけのモニターを見ても、どの臓器がどう見えているのか分からない。
「これを見てください。ここが腎臓です。けど、このような角度で見ると、ここに腫瘍があるのが分かりますか?」たしかに腎臓と言われていたゾーンが、端末の角度を変えた瞬間に腎臓のゾーンと大きく影になっていたゾーンが一つに繋がり、「大きな一つのカタマリ」になっているのが素人でも見えた。
「これは一度大きな病院で調べてもらった方がいいです…」。
尿を取るために一度診察室の外に出た。「えっ、腫瘍がある…? まさか俺に?」。全然、頭が回っていないというか、ぽーっとしているというか、けれども心拍数が強く早くなっているような感覚だった。腫瘍にも良性と悪性のものがあるので、悪性の可能性はどれくらいあるか、ちゃんと聞かねばと質問の仕方を考えていた。
診察室に再度呼ばれ、恐る恐る聞いてみた。
「調べて見ないと分かりませんが、悪性腫瘍の可能性もあります」
「…。ちなみに悪性腫瘍の可能性というのは、どれくらいの確率ですか?」
「8割ほどはあると思います…」。
まさに頭の中が真っ白…、という状態。これこそが正真正銘の頭の中が真っ白というやつだ。土曜日の朝早い段階だったので、「今すぐ病院に行けますか?すぐに診てもらったほうがいいので…」という医師の言葉に押されるまま、紹介状を持って、すぐさま近隣の病院に向かい歩き始めた。
3. 外来待合室での絶望の時間
クリニックから病院まで徒歩10分程度の距離を歩きながら、すぐさま妻に電話した。
「やばいわ、俺、がんだったわ…」
妻も当然ながら非常に驚いていた。けど、さすが元看護師。冷静に「まだ決まったわけじゃないんでしょ」との返答があり、私もそう信じたくて信じたくて仕方ない気持ちだったが、これは100%「がん」だろうなと思っていた。
病院に着くと、コロナの緊急事態宣言が発令されている時とは思えないほど、外来に患者さんが溢れていた。受付を済ませたが、座れる席がないため、外来待合室で立って待っていた。すかさずスマホを取り出して、腎がんについてネット検索をしまくった。
「5年生存率」というデータで、かなり悪い成績を見てしまい顔面蒼白になる。別のページを見ると、「腎がんは早期発見すると予後は比較的良いがんである」と書いてあり、安心する。今度のページには、「腎がんは予後が悪く…」の言葉を目にして、また地獄に突き落とされる。
…。かれこれ2時間近くも待たされていたが、もう時間の感覚がない。ただ、その間はネットから得た情報に一喜一憂していた。いや一喜一憂なんて言葉もしっくりこない。絶望の沼の中に体が100%埋まっている状態か、3cmほど頭が出た状態か、どちらにせよ、絶望の沼の中だ。常に頭がぽーっとしていて、景色は白くモヤがかかっており、何も音が耳に入ってこず、ただ心拍や呼吸は不気味に早い感覚があった。
それでも呼ばれないので、スマホをカバンにしまい、心を落ち着けることにした。不思議と自分の体のことを考えても何も思わなかった。それよりも家族のことを考えたら涙が出てきた。私は40歳、娘は10歳、息子は5歳だが、もし5年生存率どおり生きたとしても、娘は15歳、息子は10歳となるが、生きられなかった場合には娘の高校入学すら拝めないのかと。仮に10年生きられたとしても、ようやく娘が20歳になるぐらいの話。子供が就職したり、結婚したり、孫と過ごしたり、退職後には妻と二人の旅行など、楽しみにしていた未来、将来の大事なイベントが全て突然に消えてなくなってしまった。まだたくさん患者さんがいる待合室だったが、あまりに辛すぎて、あまりに悔しすぎて静かに泣いていた。
ついに呼ばれ、造影剤CTの検査を行った。台の上に横たわり、その台ごとスライドしてドーナツ状の輪を通過する間にCTを撮影してくれるものだ。はじめは造影剤なしで撮影し、次に造影剤を投与された状態での撮影、ほんの少し間を置いてからも撮影した。
4. 腎がんの告知
そして診察室に入り、医師から告げられる。
「これは腎がんです。サイズは5.3cmですが、淡明細胞型と言う一番多いタイプのものだと思います。今日は放射線科医がいないので、まだ確定診断できませんが、おそらくそうだと思います」
もう覚悟ができていたので、割と冷静に気になっていたことを質問していた。T1bなのか、転移しているのか、予後はどうなのか…などなど。腎がんは肺に最も転移しやすい癌なので、胸部CTをあらためて撮影する必要があり、その結果がないと病期が決められないとのこと。転移していなければ、T1bN0M0でステージⅠとなるが、転移していればステージⅣとなる。
モヤモヤっとしたのは、
①なぜCTは一緒に胸も撮影してくれなかったの?
②放射線科医がいないと確定診断できないの?
③木曜日のカンファレンスで相談したいので次回の診察は金曜日に…?
③は複数の目で見てくれること自体は大歓迎なのだが、泌尿器科の医師であれば、②は分かるはずだと思っていたし、何より明らかに医師が自信を持って判断できてない様子に不安を覚えていた。けれども1日も早く手術をして取り除きたかったので、外来と手術の予約だけして帰ってきた。
5. 告知を受けてから、その日をどう過ごしたか
自宅には14時頃に帰ってきた。遅めの昼食は何を食べたか、どんな味だったかも覚えていない。子供達もいつもと変わらず、無邪気に遊んでいた。私と妻も子供達の前では、いつもと変わらないような態度を振舞っていた。
病院での診断結果がどうだったのかを話すため、夫婦で別室に移動し、全てを報告した。私も妻も泣いた。ただ、思いっきり泣くことはできず、二人とも我慢しながら少し泣いた。子供達も雰囲気を察してか、こちらの部屋の様子を見ようとするが制止することが度々あった。リビングに戻り、また子供達といつもと同じように接しようにも、どう接してよいのか分からない。笑顔ができないし、何も考えられない。
過去に経験したことのないレベルの不安に押し潰されそうになるなか、大型書店まで自転車を走らせていた。ネットの情報だと何が正しいのか分からず不安になることから、全国の腎がんに携わる医師が基準としている情報にアクセスしたかったことから、以下の書籍を購入した。
・腎癌診療ガイドライン 2017版 日本泌尿器科学会(編集)
・腎癌取扱い規約ー泌尿器科・病理・放射線科 日本泌尿器科学会(編集)
・「がん患者本位のエンゲージメント」を目指して〜がん患者が社会で自分らしく生きるための3つのビジョン がん患者本位のエンゲージメントを考える会(著)
多くの医師がガイドラインとして使っている書籍であるため、当然、難しい医学用語しか出てきません。そのため、私は全ての方が買うべき本だとは思いません。
しかし、ネットの情報に惑わされたりするぐらいなら、医師は何を基準にして治療を考えるのかを知った方が安心する方もいると思います。私はその一人でした。私は会社員で人事の仕事をしている者ですが、薬剤師の免許を持っています(薬剤師として働いたことはありません)。したがって、医学を多少は理解している一般人にとって、このようなガイドラインとしてまとめられた情報は極めて貴重です。エビデンスと言って、極めて信頼性の高い治療から、まだ効果が証明できていない治療まで、ちゃんと区分してくれているので安心です。
一方、ネット検索をすると、多くの有名な医療機関のホームページにも腎がんについて詳しく掲載してくれています。ガイドラインの内容と比べても、明らかに逸脱するようなものは見当たらなかったので(当たり前か…)、そうした医療機関のホームページは比較的安心できるなと思いました。ただし、掲載されている数字が医療機関によって所々違うので、引用している文献・データが違うだけだと思いますが、結構、不安になったりします。そんなときにはガイドラインが私にとっての支えになってくれました。
最後に、子供達が寝静まった後、妻と二人で今後のことについて話しました。その日は、我慢しながら泣いていましたが(20%程度の泣き?)、その時に初めて二人で大泣きしました(70%程度)。100%までは泣けなかったのですが、思いっきり泣くと気持ちが落ち着きます。100%泣けてない私が言っても説得力がないですが、声に出して、我慢せず、ぜひ思いっきり泣いてください。
私は将来の大切にしていたことを失って絶望していて、悔しい気持ちでいっぱいだったのですが、妻は100%を受け止めてくれました。本当に心が救われました。妻も私と同じか、それ以上の不安を抱えているはずですが、ずっと側にいてくれました。感謝です。
ではまた〜。
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